NHKの技研公開に行って来た

土曜日に世田谷のNHK放送技術研究所でやっていた技研公開2012を見に行ってきた。



http://www.nhk.or.jp/strl/open2012/

以前にも一度行ったことがあるのだが、NHK という企業の放送局としての側面だけでない、研究機関としての側面を一つのパッケージとして見ることができるので機会があれば出来るだけ行きたいと思ってるイベントである。


二子玉川駅からバスで20分かけて行ったのだが、世田谷の恐ろしく狭い路地を小型のバスですり抜けるようにして走るので車内は混雑する上に激しく揺れるという軽くヘブンな気分を味わえる道程であった。以前、用賀駅からバスで同じくらいの時間かけて行ったときはここまで酷くなかったと思うのだが…。
世田谷は高級住宅街だというが、金貰っても住みたくねえなあ、という印象を強くしてくれる。




では、個々の展示からいくつかを紹介。

Hybridcast

おそらく、今回の展示で一番気合の入っていた部分。権利コンテンツを流していたため写真撮影は出来なかったが、なかなか興味深い展示だったので関連記事を引用しつつさらっと感想を。


http://www.nhk.or.jp/strl/hybridcast/index.html

「Hybridcast」「teleda API」「V-Low」・・・、5月24日からNHK放送技研公開 | 日経 xTECH(クロステック)


放送と通信の連携という目的で、テレビにアプリをインストールしてスマートフォンタブレットと連動して情報をやり取りして互いの画面に反映させたり、ネットから情報を取得してそれを反映させたり、といったサービスを実現するための規格で、その規格が実現したときにはこんなサービスが可能だよ、というプレゼン的な展示が主だった。


色々とニュース記事などでも紹介されてはいたけど、実際に展示を見ていた自分の印象としては「今後はタブレットをTVリモコンにしようとしてる」という流れを強く感じた。デジタル放送と言っても、使いづらくボタン数が多くて説明書読まないと訳がわからない従来のリモコンではこの先どうにもならないので、直感的で操作もしやすく手元にも情報を出せるタブレットやスマフォを今後はリモコンにすればいいんじゃないか、的な。

そんなもんAppleとかメーカーで独自にやってるじゃん、という感じだが、これはあくまで規格フォーマットであって、この規格の上に各社のサービスを載せていけるよう、具体的には2003年以降に何らかの形で規格の完成形を見せられるように準備している、という説明だった。



プレス撮影の映像があった



これを見ていてフッと発売予定ゲーム機のWiiUを思い出し、あれもやりたい事はこういう事なんだろうなあ、と思った。映像メディアの操作デバイスとして、タブレットみたいなものに置き換える方向に全ての業種で向かってるんだ、と。最近のテレビ関連技術の中では、一番影響が大きそうな、下世話に言えば金になりそうな話だと思った。


ただ、これらサービスについての解説員の説明にはちょっと不安を感じた。自分の説明しているサービスの魅力となる点が上手く把握できていなかったり、操作が覚束なかったり、用語の取り違えがやたらと目立ったり(上記リンク動画でもHTML5を最新ブラウザです、と紹介してるのはちょっと…)

デモ展示とか動いているものを沢山見せていたし、全体的に気合いが入ってるのは分かるんだけど、まだサービスが「こんなことができます」レベルのハリボテ例示だから質問されたときの説明に苦慮してる様子が見えてしまって、なんだか勿体無いなあ、と思わされた。


手話CGへの翻訳



気象に関するテキスト情報をリアルタイムで手話アニメーションCGに変換する技術。どちらかと言うとリアルタイムCG変換よりも、日本語を手話に自動変換する試行錯誤の方が面白かった展示。


手話と言うのはあまり研究が進んでなくて教育テキストも少ない(確かに検索をかけても出てくる関連出版物が全日本ろうあ連盟のものかNHK出版のものしかないと言う)状態で、どうも外部研究がほとんどされてない模様。さらに手話は単語が4000語ほどしかなく日本語の日常的に遣われる単語が数万あることから、まずは日本語の文章を手話の単語単位に分解表現する研究を本当に一から進めており、そこで蓄積した知識を元にやっと自動変換するという道のりを経ており、この辺りの苦労を切々と解説員が語っていた。




NHK 出演の手話通訳者に手話モーションだけでなく、変換の正確性評価についても協力を得ていたらしい



こんな調子なので日常会話の全てを自動変換するのはかなり不可能に近いため、気象や災害情報といった重要度が高く、定型文が多用される分野にターゲットを絞ることで、実用レベルの変換速度や表現の正確性が担保できるようになったとのこと。


この研究についての記事のコメント読んでると「テキストだけで十分」という意見が多いけど、後天的な聴覚異常はともかく先天的な異常だと読み書き能力の習得にかなり影響が出るらしい。

特集/聴覚障害者のコミュニケーション ろう者コミュニケーションの諸問題

実際にこのデモでも、「穏やかに晴れるところが多くなりそうです」という文章を「気分がよい(=穏やか)、明るい(=晴)、場所、たくさん、らしい」と手話翻訳していたので聴覚異常者の言語理解はコチラの想定するものとはかなり離れているケースもある、と考えたほうが良い気がする。


あとは突発的な災害発生時などにすぐに手話通訳者が手配できない状況が起こりうるので、技術でカバーする手段を用意しておくのは必要だとも。東日本大震災でも手話の重要性が再認識される場面が多かったので、いずれこの技術を利用した映像が放送波に乗ってくるかもしれない。(あんまり良い状況ではないけれど)


3D研究いろいろ

NHKは割と現在の3Dテレビのコンテンツ制作に乗り気でない、のでいつまで経っても日本の3Dコンテンツは数がそろわない〜みたいな論調の記事をどこかで読んだ気がする。

これかな?↓
オリンピックは3Dを楽しむ大チャンスなのに? 「miptv」で分かった最新3D事情(1) (1/2) - ITmedia NEWS


正直、自分も現在の奥行き情報があるだけのペラい3Dはちょっと…って思っている。NHK も本当にそんな風に思っているのかは分からないけど、NHK技研は3Dに関して現在販売されてるものの方式とは、別のアプローチで基礎研究レベルから色々と研究をしている模様。


数年前に来た時も展示されていたインテグラル立体テレビ。こちらも写真撮影は禁止だったので2011年の映像から。



2011年技研公開時のプレス映像



ジャンルとしては裸眼立体視に属する、のかな?。ベストな3〜5箇所以外は像がダブって見えてしまう現在でも市販されている裸眼立体視と違って、こちらは本当に上下左右どの角度から見ても立体に見える。ただし解像度もまだかなり低く、撮影環境がシビアすぎて一部がCGだったりと実用に向けてはかなりの壁がある印象。それでも、以前見たときは画面も小さく動きもほとんど無かったのが、今回はスポーツ映像の表示が出来ていたりと着実に進歩はしている様子。


こちらはホログラムの基礎研究。これは本当に「基礎研究」って感じで、やっと見せられるものが出てきましたってレベル。テレビの試験放送で「イ」の字を流した時ってこんなだったのかなって思う。

視線検出体験



こちらは体験コーナー。視線追跡装置を利用した研究の合間に体験型展示に出展する用のゲームを作って見ました、みたいな感じ。サッカーのPKを模していて、視線を認識したらキャッチした事になって、どれだけの割合でキャッチできるかを競うみたいなゲームだった。

この視線追跡装置自体は結構いろんな場面で使用されているようで、Webページのデザイン評価、導線評価で使用している例を聞いたことがある。やってみた実感としても精度はそれなりに高かったと思う。




そのほか



NHK としても子供の見学者を呼び込みたい意向があるのか、技研のイメージキャラクターを作成しており、着ぐるみと一緒に写真撮影などをやっていた。このキャラクター(「ラボちゃん」と言うらしい)も以前来たときよりも微妙にデザインが進化しており、パンフレットの絵とか着ぐるみの目とかがちょっとかわいらしい感じになっていた。

またスタンプラリーなども行っていて、スタンプを全部押すと出口でプレゼントとか番組宣伝パンフの入った袋をくれた。




文具セットと携帯ストラップ、キャラクターシールなどが入ってた


まとめ

他にも揺れる映像の不快度測定システムとか、外国人向けの日本語表現に書き換えるための支援システムとか、22.2マルチチャンネルの音響システムとか、面白いのはあった。スーパーハイビジョンとかはなんか凄すぎてもう家庭に来る現実感がなかった。

全体で印象に残ったのは、やはりHybridcastかな。これだけで牽引するわけではないけど、世の中全体のこれまでの生活スタイルが変化する一つのきっかけを起こすような話ではあるので、今後どうなっていくのかは都度チェックしておきたい話題だ。iPadをそろそろ買おうとも思った。

あとは以前に訪れた時よりも堅実な研究ばかりになったなあと感じた。以前来た時には、2chの書き込みから番組評価を拾い上げるシステムとか、結構尖った研究の展示もあったけど。あんまり尖りすぎてると「私の払った受信料を使ってこんな下らない事を」みたいに言い出す厄介な人がいるから表には出さないようにしてるんだろうか。

むしろ本放送の方でイッちゃったような番組が多くなってるから、技研ぐらいは堅い雰囲気で行こうとしてるのかも知れない。







…出口付近を見て前言撤回。やはりNHKはどこも少しイッちゃってる。