ディスクカッターと断裁機を実践比較する

 現在、部屋の収納をかなり圧迫するようになった単行本や文庫本を電子化するべく、解体+スキャン作業を進めているのですが、このうちの解体作業において少々難儀するようになってきました。
 というのも、これまではCARL社の廉価版ディスクカッターを用いて、(ScanSnapを使用して連続スキャン可能なよう)本を一ページ単位に解体していたのですが、作業時間と作業にかかる肉体的負担がそろそろキツイ領域に入ってきたため、思い切ってプラス社の断裁機を購入するに至りました。
 購入してから数日、サイズや厚みの違う本をバッサバサと切りまくって試してみましたが、色々と断裁機の特徴が明確になってきました。そこで、ディスクカッターと断裁機の両方を実際に使用してみた観点から、それぞれの解体作業手順をなぞりつつ、メリット、デメリットを対照的に評価してみました。
※ あくまでこの評価は主観的なものであるため万人に適用されるものではありません。あしからず。

ディスクカッター(CARL社製 DCシリーズ)の場合

ディスクカッターの基本事項


 ディスクカッター(ロータリーカッター等とも呼ばれる)は円盤状のカッターをスライドさせることで紙を切断する機構となっています。
 値段は本体が実売で2000円〜15000円のものまで幅広く、それぞれ紙当て、紙押さえの有無や一度に可能な切断枚数(後述)などで違いがあります。替刃やカッターの下に設置するマットなどの部品価格は1000円以下。それほど頻繁に交換を必要とするわけで はありませんが、慣れない初期作業時のロスを考えてもコストが安く抑えられます。
 縦横に広く高さ方向は薄い、板状の形をしており、かつ軽量(1.3kg〜2.6kg程度)であるため比較的収納しやすいです。ただし、本体が軽量ゆえに安定性にやや欠ける所があるので、キレイに切断したいなら作業時は安定した場所や姿勢で行うことが重要です。
 切断に力はほとんど必要ない上、切断面は思っている以上にキレイに切れます。ただし、円盤状カッターの構造上、多くの枚数を一度に処理することは難しく、紙質によるものの、実売10000円以上のものでも40枚程度、廉価版(実売2000〜5000円)では10〜15枚程度*1が限界となっています。

解体に必要なもの
  • ディスクカッター
  • カッターナイフ(新聞紙、マット等の下敷き)
  • ドライヤー
手順
  1. 表紙カバーを外し、中表紙を剥がします。中表紙は手でちぎるように剥がしていきます。
     糊が固まっていて剥がしにくい場合はドライヤーなどで熱を当ててやると糊が溶けて剥がれやすいです。
  2. カッターナイフで本をディスクカッターにセット可能な厚みに切り分けます。本を十分良く開いて糊部分を露出させ、カッターナイフで糊部分を裂くように切断します。このとき、本の内容部分に刃を当てないように気をつけます。定規等を用いるのも有効です。また、マットや新聞紙を敷いて作業台などを傷つけないようにします。
    ※製本工程の関係から、8枚(16ページ)を単位として開く箇所を定めておくと糊が簡単に露出し解体しやすくなります。*2
  3. ディスクカッターで本の側端(糊のある側)を切断します。ディスクカッターの目盛りにページ反対側の側端を合わせ(紙当てがあるタイプの場合は紙当てに合わせ)、本を紙押さえや手などで固定した後にディスクカッターをスライドさせて切断します。手動で切断するため切り残しが出来ている可能性があるので、念のため1〜2往復すると確実です。

 上記工程で単行本1冊あたり10分くらい。(慣れやスピード重視で短縮する事は可能です)集中力を求められる作業が多く、それらを何度も行うことで肉体的にも精神的にもそこそこ疲労します。また、複数回行うため切り屑が結構出て散らかることにもなります。
 ちなみに、以前は背表紙の糊部分をカッターナイフで削り落としてから本を毟り取るといった作業を手順2.で行っていたのですが、時間がクソかかる上、15冊ほど連続でやったところで指が痛くなりそのまま2日ほど痛みが残ったため止めました。

マガジンラックにも収納可能 中表紙を剥がす
カッターナイフで裂くように 側端を切り落とす

断裁機(PLUS社製 PK-513L)の場合

断裁機の基本事項


 断裁機は本に対して刃を垂直に落とすことで紙を切断する機構となっています。要はギロチンです
 値段は本体が実売で30000円以上、替刃は実売で 15000円以上と高めです。ただし交換推奨時期は単行本換算で1000冊以上なので、頻繁に変える必要はありません。研いで継続使用も可能です。刃の当たる場所に設置する受け木は1000円程度なので、こちらはディスクカッターの消耗品と同程度です。
本体重量14kg、およそ一辺40cmキューブ程度の領域を占拠するなど、なかなかの存在感を示します。この重厚さが断裁時の安定感をもたらしているため、収納よりも機能や精度を重視したデザインとも言えます。
 ハンドルを下ろして切断する際に、力はほとんど入れる必要がなく切断面も均一で鮮やかです。厚さ1.5cm、一度に 160〜180枚の用紙が裁断可能、という事にはなっていますが、実際に単行本のような紙質のものを切断する時は中表紙含めて200ページ程(100枚)でギリギリ*3といったところです。(セットする時、紙押さえにブロックされます)同じタイトルでもちょっとページにボリュームのある巻などはカッターナイフ等で二つに分けてやる必要があります。

解体に必要なもの
  • 断裁機
  • カッターナイフ(厚い本を切断する場合)
  1. 表紙カバーを外します。(表紙カバーは背表紙を残したいので断裁機とは別でカットしました)中表紙の背表紙部分もスキャンしたい場合はディスクカッターと同様に剥ぎ取り、これも別でカットします。
  2. 断裁機に単行本をセットします。厚めの単行本の場合はカット可能な厚さになるようカッターナイフ等で切り分けてからセットします。*4
     LEDランプのガイドラインと紙あて部分のルーラーを参考に、移動ガイドを動かして切断位置を合わせます。この時、紙あての移動ガイドは意外と傾きやすいため、ルーラー位置(右端)基準で合わせていると本が斜めに切断される事があります。できるだけ移動ガイドは両端を手で押さえながら位置調整をして傾きをこまめに確認するのが得策です。
     本体左前にある安全ロックレバーを外しつつ、ハンドルを下ろす事で初めて刃が下まで降ろせるようになります。そのままハンドルを両手で掴み「ザクッ」という感覚がするまで降ろし切る事で単行本が切断されます。

 上記工程で1冊あたり10秒ちょっと、といったところでしょうか。スキャン作業中に本のページを補充して合間にサクサクと解体が完了してるとか、そんなレベルです。

※切断時には上から紙押さえが降りてくるのですが、本の台座に当たる部分が刃の圧力で滑る事で斜めにカットされてしまう事があるようです。この対策として、台座部分にゴムシートを貼って滑り止めにする方法が紹介されています。*5
 実際に試してみたのですが、ゴムシートの厚みでこれまでセットできた本がセットできず、1冊分を1度で切断できなくなるという事態が多く発生したため剥がしました。
 結局、布ガムテを台座に貼り付けて若干滑り辛くなるようしています。ツルツルのアルミ板よりはまだマシといった程度ですが。

電池BOXが無骨すぎるデザイン 単行本をそのまま切断可能 布ガムテで気休めに滑り止め

評価

評価項目 ディスクカッター 断裁機
  価格      ○      × 
  効率      ×      ◎ 
  収納      ○      × 
  品質      △      ○ 
  安全      ○      △ 
価格

 ディスクカッターが実売12000円程度、廉価版なら2000円程度から購入可能なのに対し、断裁機は実売で30000円を超えるため、かなりの差があります。ScanSnap等のスキャナーと合わせて購入する事を考えると70000円を超えて来るため、ためらう気持ちはやむなしといったところです。
 また、交換部品に関してもディスクカッターの替刃が実売で 1000円以下なのに対し、断裁機は替刃が15000円以上(注:通常使用では20万枚切断で交換、研磨が推奨)なので使用上のミス等で刃を損傷した時の影響も大きくなります。

作業効率

 実際に購入・使用するまでは甘く見ていましたが、いざ使ってみたときの断裁機の効率は想像の遥か上でした。効率面を考えると、ディスクカッターではそこそこの時間と労力を注ぐ本のページ分割作業が、断裁機ではスキャン処理中の片手間に出来るというのは革命的と言えるほどの差異があります。
 平日の就業終了後に自宅で作業をしていて、ディスクカッター使用時には処理できる数が1日に1〜2冊程度だったのが、断裁機にしてからは1日に6〜8冊処理できるようになりました。

収納

 机の引き出しやマガジンラックに突っ込んだり、外出先に持ち運ぶことすら容易なディスクカッターの扱いやすさに比べると、重くて場所を取り、ハンドルが上がった状態で収納する事になる断裁機はかなり置き場所を問われる事になります。
 ちなみに断裁機の置き場所を、単行本を解体して減らして確保しようと考えた場合、ハンドル部分まで含めて考えると、青年誌の単行本サイズにして3×2×26=156冊ぶんが余裕で収まるぐらいのスペースを必要とします。(実測値)

ハンドルまで高さ26冊分 台座は3冊×2冊分より少し大きい
切断品質

 切断面はどちらもキレイに仕上がり、スキャンする上ではほとんど問題なしです。敢えて差をつけるとすれば断裁機の方が作業時に安定感があるのと1度で切断できるのとで、均一の結果が得られる事ぐらいです。
 ディスクカッターでもしっかりと本を押さえておけば、ほとんど切断方向がズレたりはしませんが、1冊を複数回に分けて切断する都合上、1冊分の切断結果にズレや切り残しが発生する可能性はやや高いと言えます。ただし、手元で確認しながら切断位置を細かく調整できるため1枚単位での切断精度には優れています。

安全性

 刃に関しては、ディスクカッターは刃先に指などが当たる事は通常有り得ず、断裁機についてもロックを外さない限り刃が降りることは無い機構のためどちらも問題はないと言えます。
 むしろ、断裁機本体の重さや堅牢さ、重量バランスの悪さ(刃の付近に重量が集中している)から床に設置していると通りすがりに足をぶつけたり、持ち上げたら腰を痛めたり、バランスを崩して落としたり、といったアクシデントがより多く想定されるため、そちらに注意が必要です。

まとめ・感想

 価格や収納など、カタログスペックとして見るとかなり手を出し辛い感のある断裁機ですが、購入できる金銭的余裕と収納容量があるならば、買わない手は無い、買って損は無いと言い切れるパフォーマンスです。
 たとえ、「そのお金で PS3が買えたよね」とか言われたとしても、すかさず春風のような笑顔を返せる程の満足感です。
実際、本を解体しているときのあのワクワク感と爽快感は病み付きになるものがありますので。

 ではディスクカッターが不要になるかと言うとそんな事も無く、断裁機ではなかなかフォローし切れないさまざまな部分の処理において小回りが利き、存分にその存在価値を発揮します。
 実際に私は表紙カバーや帯などの切断にはディスクカッターを用いており、背表紙の境界を調整しつつ切断するなど断裁機で行うには不向きな細かい作業が手軽に素早く行えるため重宝しています。

表紙カバーの切断は
ディスクカッターが有効
サイズ比較
(断裁機の左上にDVD-Rケース)


 ディスクカッターは比較的万能なので、それ1台で大量の解体作業も出来なくは無いのですが、100冊単位の本を解体しよう、さらに今後も増える見込みがある、というなら間違いなく断裁機は使っておくべきです。
 人間、心が折れるのは意外と早いです。いや、早かったです。

*1:CARL 社のカタログ参照

*2:ScanSnap 向け本の解体技術」http://slashdot.jp/~akiraani/journal/470334

*3:文庫本の場合は180枚くらい可能

*4:カット方法はディスクカッターの2.を参照

*5:「裁断機PK-513を使うときの注意点」http://kova.la.coocan.jp/blog/2007/01/pk513.html